救急外来を訪れた軽症の筋骨格系の患者を、医師の診察より先に理学療法士が診る。カナダ・ケベック市の大学病院で行われたこの試験の結果が、2021年から2026年にかけて4本の論文として出ています。痛み、救急外来への再受診、診断の一致度、そして費用。同じ試験のデータを角度を変えて分析したもので、最後の1本は救急外来の原価計算を扱っています。
トリアージ直後に理学療法士が対応する試験
もとになった試験は、ケベック市のCHU de Québec-Université Lavalを構成するラヴァル大学病院センター(CHUL)の救急外来で行われたランダム化比較試験です(試験登録番号 NCT04009369)。2018年9月から2019年3月までの24週間にわたって参加者を募集し、退院後3か月まで追跡しました。
対象は18歳から80歳で、軽症と見込まれる筋骨格系の訴えで救急外来を受診した患者。重篤な状態や全身状態が不安定な患者は除かれています。適格性を評価した579人のうち78人が組み入れられ、平均年齢40.2歳(標準偏差17.6)、女性が44%でした。介入群40人はトリアージの直後、医師の診察を受ける前に理学療法士の問診と身体評価を受け、助言、運動、補助具、画像検査、薬剤、他職種への受診といった対応を提案されます。対照群38人は救急医による通常の対応を受けました。
注意したいのは、理学療法士が医師の代わりを務めたわけではない点です。この試験ではCHULの院内規定により、救急外来を受診した患者は全員が退院前に救急医の診察を受けています。救急医は理学療法士の提案を採用しても採用しなくてもよく、必要と判断すれば理学療法士と相談することが推奨されていました。診療の入口が理学療法士に置かれた、という構造です。
論文上の呼び方は年を追って変わっており、2021年の報告では「直接アクセス型(direct-access)」、2026年の2本では「一次対応(primary contact)」の理学療法と表記されています。
痛みは下がり、1か月後の再受診はゼロだった
結果はAcademic Emergency Medicine誌の2021年8月号に掲載されています。主要アウトカムは痛みの強さ(NPRS)と、痛みが生活に及ぼす支障(BPI)の2つ。介入群では1か月後と3か月後のいずれも、対照群より統計的に低い水準にとどまりました。3か月後の群間差はNPRSで1.6点、BPIで1.1点です。
救急外来への再受診は、1か月時点で対照群21.8%(32人中7人)に対し介入群は0%(31人中0人)で、統計的に有意な差が示されました。ただし3か月時点は対照群3.3%(30人中1人)対介入群0%(32人中0人)で、有意な差はありません。
薬剤と画像検査については、救急外来受診時と追跡時で意味が異なるため注意が必要です。受診時に比較されたのは、理学療法士による推奨と救急医による処方です。処方薬は対照群66.7%対介入群42.5%、そのうちオピオイドは38.2%対2.6%、画像検査は77.8%対37.5%で、いずれも介入群のほうが低い割合でした。一方、市販薬は11.1%対70.0%と介入群のほうが高くなっています。
追跡時点は患者の自己申告による実際の使用です。1か月後は処方薬71.9%対32.3%、オピオイド34.4%対12.9%で介入群が少なく、3か月後には処方薬・オピオイドとも有意な差は認められませんでした。他職種への受診、追跡時点の画像検査、入院率は、いずれの時点でも群間の差は示されていません。
理学療法士と救急医の診断はどれだけ一致したか
この試験のデータを使った二次解析が、Musculoskeletal Care誌の2024年12月号に掲載されました。理学療法士と救急医の双方が評価した36人(介入群40人のうち、救急医の診察前に退室した4人を除く)について、両者の診断がどの程度一致するかを調べたものです。
生の一致率は86.1%、一致度の指標であるGwet's AC1は0.84(95%信頼区間 0.69〜0.98)でした。不一致として多かったのは、理学療法士が骨折や打撲を疑い、救急医が靱帯や半月板の障害と診断した3例です。著者らは、この結果が救急外来における理学療法の安全性を支持するとしたうえで、より多様な診断名と年齢層で確認する必要があると述べています。
ただしこの解析では、救急医が理学療法士の診療記録を閲覧できる状態にありました。論文自身も完全な盲検ではないと明記しています。一致率は安全性そのものを測った指標ではない点も含め、控えめに読むべき数字です。
費用を扱った2本の分析
費用については、性格の異なる分析が2本出ています。数える範囲が違うため、それぞれ分けて読む必要があります。
1本目は、Journal of Orthopaedic and Sports Physical Therapy誌の2026年2月号に掲載された、3か月間の費用効用分析です(オンライン先行公開は2025年11月27日)。健康関連QOLの評価票であるEQ-5D-5Lの回答をカナダの換算式で効用値に変え、その推移から質調整生存年(QALY:生存期間を生活の質で重みづけした指標)を面積法で算出しています。
3か月間に累積したQALYは理学療法士+救急医群が0.195(95%信頼区間 0.179〜0.209)、救急医のみ群が0.182(同 0.168〜0.195)。公的支払者の視点での3か月の総費用は1人あたり469.23カナダドル対804.70カナダドル、社会の視点では878.37カナダドル対1288.76






