リハビリ職のキャリアは「短い」のか ── データと現場感のあいだで

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気づけば、同期がいなくなっていた

入職して数年。ふと周りを見渡すと、同期の顔ぶれが変わっている。

「あの人、辞めたんだ」「転職したらしいよ」。そんな会話が増えてきた。残っているのは自分を含めて数人。あの頃一緒に悩んでいた仲間は、今どこで何をしているのだろう。

辞めた人たちは、決して能力が低かったわけではありません。むしろ、患者のことを真剣に考え、丁寧に向き合っていた人が多かった。だからこそ、理想と現実のギャップに苦しんでいたのかもしれません。

リハビリ専門職のキャリアは、思ったより短いのではないか──。現場では、そう感じる瞬間が繰り返し訪れます。しかし、そう言い切れるだけの根拠はあるのでしょうか。

「短い」は本当か──データを問い直す

「リハ職のキャリアは短い」という言説をよく目にします。まずは、その根拠とされる数字を確認します。

単純比較では確かに「短く」見える

厚生労働省 令和7年(2025年)賃金構造基本統計調査

理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・視能訓練士(4職種合算)の平均勤続年数は8.4年。同調査における一般労働者全体の平均勤続年数は約12年台です。両者を並べれば、確かにリハ職は約4年短い。

※2020年以降、賃金構造基本統計調査ではPTは作業療法士・言語聴覚士・視能訓練士と合算して集計される仕様に変わっています。

しかし、この比較は交絡因子を見落としている

勤続年数は、年齢とほぼ比例して増える指標です。同じ職場に30歳の人と50歳の人がいれば、当然後者の勤続年数は長い。だから、職種ごとの勤続年数を比較するときは、平均年齢を見なければなりません。

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リハ職(PT/OT/ST/視能訓練士)令和7年

勤続 8.4年

平均年齢 36.2歳/労働者数 約28万人

令和7年賃金構造基本統計調査

看護師令和6年

勤続 9.4年

平均年齢 41.2歳。リハ職より5歳年上で、勤続年数の差は1年

令和6年賃金構造基本統計調査

一般労働者 全体令和6年

勤続 約12年

平均年齢 約43〜44歳。リハ職より7〜8歳年上

令和6年賃金構造基本統計調査

同じ医療専門職である看護師(平均41.2歳、勤続9.4年)と比べると、リハ職(平均36.2歳、勤続8.4年)の勤続年数は、年齢差約5歳に対して1年短いだけです。つまり、年齢構造を考慮すれば、リハ職の勤続年数は「極端に短い」とは言い切れない水準にあります。

なぜリハ職は若いのか

リハ職が若い理由は、職業そのものが比較的若いからです。理学療法士の国家資格制定は1966年。養成校の急増は2000年代以降で、PT有資格者21万人の多くが2010年代以降に資格を取得しています。作業療法士、言語聴覚士も同様です。

業界全体がまだ若いために、平均年齢が低く、結果として勤続年数も見かけ上短く見える。これは「辞めが多い」のではなく、「業界がまだ成熟途上」という側面が大きいのです。

「勤続年数」と「職業キャリア」は別物

もう一つ重要な区別があります。勤続年数は「同じ職場での年数」であり、「職業そのものを続けた年数」ではありません。賃金構造基本統計調査には「経験年数」という別指標もあり、転職してもリセットされない累計の職業年数を示します。

リハ職は転職が多い職業とされますが、転職しても同じ職種で働き続ける人が多ければ、勤続年数は短くても職業キャリアは長いことになります。実際、米国の研究(APTA, 2025)では、50歳未満のPTの年間職業離脱率は1.42%と、決して高くない水準です。

では、何が問題なのか

「リハ職のキャリアは短い」と単純に言い切ることはできません。しかし現場で「同期が消えていく」と感じる感覚は、嘘ではありません。問題は、平均値の単純比較では捉えられない、もっと構造的な部分にあります。以下のセクションで、その正体を読み解きます。

それでも「同期が消える」と感じる理由

「キャリアが短い」と単純には言えない。それでも、現場で感じる違和感には根拠があります。その正体は、勤続年数という単一の指標では見えてこない、いくつかの現実です。

① 無視できない割合のバーンアウト

2024年のPhysiotherapy誌に掲載されたメタ分析(Venturini et al.、32研究・5,984名のPTを対象)では、厳格な基準で判定されたバーンアウト有病率は8%。一方で、情動的疲弊は27%、脱人格化は23%、達成感の低下は25%と、部分的なバーンアウト症状はより広く見られます。

バーンアウト有病率(Venturini et al., 2024)

全体のバーンアウト:8%

情動的疲弊:27%

脱人格化:23%

達成感の低下:25%

米国の横断調査(2020年末〜2021年初実施、2023年APTA紹介)では、約50%がバーンアウトを経験と回答

さらに、2024年のOccupational Health Science誌のメタ分析(Clarke et al.)では、筋骨格系アライドヘルス専門職(PT、OT、カイロプラクター、足病医を含む)の約40%が「情動的疲弊」の高レベルを経験していると報告されています。COVID-19以降の患者負荷増とスタッフ不足が背景にあると指摘されています。

バーンアウトが即離職につながるわけではありませんが、「続けていくのがしんどい」と感じる人は、実感値として確実に多いのです。

② 辞めていく人の語り──5つの要因

2024年のJournal of Allied Health誌に掲載された質的研究(Handlery et al.)では、臨床を離れた19名のPTにインタビューを行い、5つのテーマを抽出しています。

1. キャリア昇進の機会不足

「このまま続けても、どこにも行けない」という感覚。管理職ポストは限られ、専門性を高めても給与に反映されにくい。臨床以外のキャリアパスが見えない。

2. 生産性要件による患者ケアの質低下

「1日○単位」というノルマに追われ、患者と向き合う時間が削られる。本当はもっと丁寧に評価したい、説明したい。でも時間がない。「自分がやりたかった理学療法」ができないことへの絶望。

3. 教育コストと報酬の不均衡

米国では、PT教育にかかる学生ローンの負担が大きな問題となっています。APTA調査では、PT教育関連の平均債務額は約11.6万ドル、学生ローン総債務は平均約14.2万ドルに達するとされ、初任給との釣り合いが取れないと感じる人が多い。日本でも、養成校の学費と初任給のバランスは厳しいものがあります。

4. 身体的負担

患者の移乗介助、立位保持の補助、徒手療法。療法士の身体は消耗します。腰痛や肩の痛みを抱えながら働いている人は少なくありません。

5. 感情的負担

患者の苦痛に日々向き合うことで生じる消耗。回復しない患者、亡くなる患者。「もっとできたのではないか」という自責。これはコンパッション・ファティーグとも重なります。

③ 新人期の不確実性への苦悩

2024年のオランダの研究(Biemans et al.)では、新人PTが学生から専門職への移行期に「不確実性」との向き合い方に苦慮していることを報告しています。

新人は、患者にどれだけ貢献できているのか確信が持てません。「自分の介入は本当に効いているのか」「もっと時間をかければ違う結果になったのではないか」。こうした不確実性への対処が難しい場合、職業そのものへの疑念につながる可能性が示唆されています。

④ 完璧主義と「道徳的傷害」

2025年にPLOS One誌に掲載された英国PTの質的研究(Skamagki et al.)は、バーンアウトの背景にある「完璧主義」と「道徳的傷害(moral injury)」に注目しています。

道徳的傷害とは、自分の倫理観や価値観に反する行為を強いられる、あるいは見過ごさざるを得ない状況に置かれることで生じる心理的な傷です。時間や制度の制約の中で「本当は必要だとわかっているケアを提供できない」と感じ続けることは、単なる疲労を超えた消耗を生みます。

同研究では、完璧主義傾向が強いPTほどこの道徳的傷害を深く受け止め、バーンアウトにつながりやすいことが

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