SNSの理学療法士インフルエンサーを信じていい?──複数の研究が示す「信頼」の落とし穴

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目次

1. 「この手技、Instagramで見たんですけど」

実習生や後輩から、こんな質問をされたことはありませんか。

「○○さんのInstagramで見たこの手技、患者さんに使っていいですか?」

あるいは自分自身、YouTubeで見た運動療法を「これ良さそう」と思って取り入れた経験があるかもしれません。

SNSには、わかりやすい動画解説や、臨床ですぐ使えそうなテクニックがあふれています。教科書より実践的に見えるし、何より「今」の情報が手に入る。フォローしているPTインフルエンサーが何万人ものフォロワーを持っていると、なんとなく「信頼できそう」と感じてしまう。

でも、ちょっと待ってください。

その情報、エビデンスはあるのでしょうか。そして私たちは、なぜSNSの情報を「信頼できる」と感じてしまうのでしょうか。

この記事では、2019年から2025年に発表された複数の研究をもとに、SNS上の理学療法情報の「質」と、私たちが陥りがちな「信頼のバイアス」を掘り下げます。Instagram、YouTube、TikTok、Twitterなど、プラットフォームを横断した知見をまとめました。

2. SNS上のPT情報、その実態は?

本記事がInstagramを中心に扱う理由
Wilczyński氏らの研究では、Instagram、Facebook、TikTok、YouTube、X/Twitterの5プラットフォームすべてを調査しています。しかし統計分析の結果、「インフルエンサーへの信頼」の有意な予測因子となったのはInstagram利用頻度のみ(OR=1.41)でした。YouTube、TikTok、Facebook、Xは有意ではありませんでした。これが本記事でInstagramを中心に扱う理由です。ただし、後述するように他プラットフォームでも情報の質には同様の課題があります。

では、SNS上の理学療法関連情報は、実際どのような「質」なのか。

2023年、Brazilian Journal of Physical Therapyに発表されたWageck氏らの研究は、InstagramとTwitter上の理学療法関連投稿632件を系統的にレビューしました。対象は英語・ポルトガル語の投稿で、介入内容を含むものです。

その結果は

⇆ 横にスワイプして確認できます

出典なしWageck 2023

86%

投稿のうち、情報源(論文など)を引用していないものの割合

利益相反ありWageck 2023

57%

投稿またはプロフィールに潜在的な利益相反が確認された割合

知識獲得を促進Wageck 2023

9%

科学情報の理解を促進する形で作成されていた投稿の割合

正確な情報Wageck 2023

51%

出典を引用した投稿のうち、引用文献と整合していたものの割合

つまり、大多数の投稿は出典を示さず、半数以上に利益相反の可能性があり、知識伝達を目的としたものは1割に満たないという状況です。

さらに深刻なのは、出典を引用していた投稿でも、39%が方法論的に質の低い研究を参照しており、正確な情報を伝えていたのは約半数に過ぎなかったことです。

この研究の結論は明確です。「理学療法士はSNSからの情報を慎重に消費すべき」。

YouTubeやTikTokではどうか?

「Instagramの話でしょ?YouTubeは違うのでは」と思うかもしれません。残念ながら、他のプラットフォームでも状況は類似しています。

腰痛リハビリ動画YouTube

約50%

人気動画200本のうち、ガイドラインと整合していたのは約半数のみ(Maia 2021)

肩関節モビライゼーションYouTube

87%

教育動画のうち「低品質」と評価された割合(Shah 2022)

足首捻挫エクササイズTikTok

2%

「fair」以上の評価を得た動画の割合。「good」「excellent」は0%(Anastasio 2023)

一般健康情報TikTok

44%

非事実情報を含む動画の割合(UChicago 2024)

冒頭の注記で述べたように、Wilczyński研究では5プラットフォームのうちInstagramのみが「信頼」の有意な予測因子でした。なぜでしょうか。正直なところ、この研究だけでは理由まではわかりません。ただ、Instagramは「映える」ビジュアルが重視されるプラットフォームです。フォロワー数やいいね数が目に見えやすく、それが「信頼できそう」という感覚につながりやすいのかもしれません。

ただし、「信頼されやすい」ことと「情報の質が高い」ことは別問題です。上記のデータが示すように、プラットフォームを問わず、SNS上のPT情報には慎重であるべきという結論は変わりません。

3. なぜ私たちはインフルエンサーを信じてしまうのか

なぜ私たちは、こうした情報を「信頼」してしまうのか。

2025年8月にBMC Medical Educationに発表されたWilczyński氏らの研究が、これを明らかにしています。ポーランドの32大学からPT学生314名を調査し、SNSインフルエンサーへの「信頼」を形成する要因を分析しました。

PT学生のSNS利用実態

フォロー率Wilczyński 2025

77.4%

少なくとも1人のPTインフルエンサーをフォローしている学生の割合

複数フォローWilczyński 2025

44.4%

5人以上のインフルエンサーをフォローしている割合

信頼度Wilczyński 2025

61%

インフルエンサーを「価値ある信頼できる情報源」と回答した割合

購買経験Wilczyński 2025

45.7%

インフルエンサー推奨の商品を購入した経験がある割合

信頼を予測する3つの要因

統計分析の結果、「インフルエンサーへの信頼」を予測する有意な要因は以下の3つでした。

① インフルエンサーから情報を得る頻度が高い
オッズ比 3.54(95%CI: 2.45–5.22)
頻繁に情報を得ている人ほど、信頼度が3.5倍高い。

② 「大学教員より有益」と感じている
オッズ比 2.00(95%CI: 1.46–2.76)
インフルエンサーのほうが講義より役立つと感じている人は、信頼度が2倍。

③ Instagramの利用頻度が高い
オッズ比 1.41(95%CI: 1.06–1.87)
Instagramをよく使う人ほど、信頼度が1.4倍高い。

ここで注目したいのは、年齢、学年、そして批判的吟味のトレーニング経験が、信頼度と有意な関連がなかったことです。

要するに、「接触頻度」と「役に立つと感じるかどうか」が信頼を生み出していて、教育的介入ではそれを修正できていない可能性がある。

これはFindyartini氏らが2024年にインドネシアの医学生1,122名を対象に行った研究とも一致します。SNSの学習利用と自己調整学習スキルには低〜中程度の相関(r=0.20–0.46)があった。つまり、SNSは学習ツールとして使われているけれど、その「質」を見極めているかは別の話、ということです。

4. 「批判的に見ている」は本当か?──認知的不協和の問題

「私はちゃんと批判的に見ている」と思うかもしれません。

Wilczyński氏らの研究で気になるのは、62%の学生が「インフルエンサーには商業的バイアスがある」と認識していたのに、61%が依然として「信頼できる」と回答していたことです。

バイアスがあるとわかっていながら、信頼している。この矛盾した状態を、研究者たちは「認知的不協和(cognitive dissonan

SNSの理学療法士インフルエンサーを信じていい?──複数の研究が示す「信頼」の落とし穴

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