目次
- 1. 「この手技、Instagramで見たんですけど」
- 2. SNS上のPT情報、その実態は?
- 3. なぜ私たちはインフルエンサーを信じてしまうのか
- 4. 「批判的に見ている」は本当か?──認知的不協和の問題
- 5. 臨床現場のエビデンス実践、その現実
- 6. 明日から使える「SNS情報」5項目チェック
1. 「この手技、Instagramで見たんですけど」
実習生や後輩から、こんな質問をされたことはありませんか。
「○○さんのInstagramで見たこの手技、患者さんに使っていいですか?」
あるいは自分自身、YouTubeで見た運動療法を「これ良さそう」と思って取り入れた経験があるかもしれません。
SNSには、わかりやすい動画解説や、臨床ですぐ使えそうなテクニックがあふれています。教科書より実践的に見えるし、何より「今」の情報が手に入る。フォローしているPTインフルエンサーが何万人ものフォロワーを持っていると、なんとなく「信頼できそう」と感じてしまう。
でも、ちょっと待ってください。
その情報、エビデンスはあるのでしょうか。そして私たちは、なぜSNSの情報を「信頼できる」と感じてしまうのでしょうか。
この記事では、2019年から2025年に発表された複数の研究をもとに、SNS上の理学療法情報の「質」と、私たちが陥りがちな「信頼のバイアス」を掘り下げます。Instagram、YouTube、TikTok、Twitterなど、プラットフォームを横断した知見をまとめました。
2. SNS上のPT情報、その実態は?
本記事がInstagramを中心に扱う理由
Wilczyński氏らの研究では、Instagram、Facebook、TikTok、YouTube、X/Twitterの5プラットフォームすべてを調査しています。しかし統計分析の結果、「インフルエンサーへの信頼」の有意な予測因子となったのはInstagram利用頻度のみ(OR=1.41)でした。YouTube、TikTok、Facebook、Xは有意ではありませんでした。これが本記事でInstagramを中心に扱う理由です。ただし、後述するように他プラットフォームでも情報の質には同様の課題があります。
では、SNS上の理学療法関連情報は、実際どのような「質」なのか。
2023年、Brazilian Journal of Physical Therapyに発表されたWageck氏らの研究は、InstagramとTwitter上の理学療法関連投稿632件を系統的にレビューしました。対象は英語・ポルトガル語の投稿で、介入内容を含むものです。
その結果は
⇆ 横にスワイプして確認できます
出典なしWageck 2023
86%
投稿のうち、情報源(論文など)を引用していないものの割合
利益相反ありWageck 2023
57%
投稿またはプロフィールに潜在的な利益相反が確認された割合
知識獲得を促進Wageck 2023
9%
科学情報の理解を促進する形で作成されていた投稿の割合
正確な情報Wageck 2023
51%
出典を引用した投稿のうち、引用文献と整合していたものの割合
つまり、大多数の投稿は出典を示さず、半数以上に利益相反の可能性があり、知識伝達を目的としたものは1割に満たないという状況です。
さらに深刻なのは、出典を引用していた投稿でも、39%が方法論的に質の低い研究を参照しており、正確な情報を伝えていたのは約半数に過ぎなかったことです。
この研究の結論は明確です。「理学療法士はSNSからの情報を慎重に消費すべき」。
YouTubeやTikTokではどうか?
「Instagramの話でしょ?YouTubeは違うのでは」と思うかもしれません。残念ながら、他のプラットフォームでも状況は類似しています。
腰痛リハビリ動画YouTube
約50%
人気動画200本のうち、ガイドラインと整合していたのは約半数のみ(Maia 2021)
肩関節モビライゼーションYouTube
87%
教育動画のうち「低品質」と評価された割合(Shah 2022)
足首捻挫エクササイズTikTok
2%
「fair」以上の評価を得た動画の割合。「good」「excellent」は0%(Anastasio 2023)
一般健康情報TikTok
44%
非事実情報を含む動画の割合(UChicago 2024)
冒頭の注記で述べたように、Wilczyński研究では5プラットフォームのうちInstagramのみが「信頼」の有意な予測因子でした。なぜでしょうか。正直なところ、この研究だけでは理由まではわかりません。ただ、Instagramは「映える」ビジュアルが重視されるプラットフォームです。フォロワー数やいいね数が目に見えやすく、それが「信頼できそう」という感覚につながりやすいのかもしれません。
ただし、「信頼されやすい」ことと「情報の質が高い」ことは別問題です。上記のデータが示すように、プラットフォームを問わず、SNS上のPT情報には慎重であるべきという結論は変わりません。
3. なぜ私たちはインフルエンサーを信じてしまうのか
なぜ私たちは、こうした情報を「信頼」してしまうのか。
2025年8月にBMC Medical Educationに発表されたWilczyński氏らの研究が、これを明らかにしています。ポーランドの32大学からPT学生314名を調査し、SNSインフルエンサーへの「信頼」を形成する要因を分析しました。
PT学生のSNS利用実態
フォロー率Wilczyński 2025
77.4%
少なくとも1人のPTインフルエンサーをフォローしている学生の割合
複数フォローWilczyński 2025
44.4%
5人以上のインフルエンサーをフォローしている割合
信頼度Wilczyński 2025
61%
インフルエンサーを「価値ある信頼できる情報源」と回答した割合
購買経験Wilczyński 2025
45.7%
インフルエンサー推奨の商品を購入した経験がある割合
信頼を予測する3つの要因
統計分析の結果、「インフルエンサーへの信頼」を予測する有意な要因は以下の3つでした。
① インフルエンサーから情報を得る頻度が高い
オッズ比 3.54(95%CI: 2.45–5.22)
頻繁に情報を得ている人ほど、信頼度が3.5倍高い。
② 「大学教員より有益」と感じている
オッズ比 2.00(95%CI: 1.46–2.76)
インフルエンサーのほうが講義より役立つと感じている人は、信頼度が2倍。
③ Instagramの利用頻度が高い
オッズ比 1.41(95%CI: 1.06–1.87)
Instagramをよく使う人ほど、信頼度が1.4倍高い。
ここで注目したいのは、年齢、学年、そして批判的吟味のトレーニング経験が、信頼度と有意な関連がなかったことです。
要するに、「接触頻度」と「役に立つと感じるかどうか」が信頼を生み出していて、教育的介入ではそれを修正できていない可能性がある。
これはFindyartini氏らが2024年にインドネシアの医学生1,122名を対象に行った研究とも一致します。SNSの学習利用と自己調整学習スキルには低〜中程度の相関(r=0.20–0.46)があった。つまり、SNSは学習ツールとして使われているけれど、その「質」を見極めているかは別の話、ということです。
4. 「批判的に見ている」は本当か?──認知的不協和の問題
「私はちゃんと批判的に見ている」と思うかもしれません。
Wilczyński氏らの研究で気になるのは、62%の学生が「インフルエンサーには商業的バイアスがある」と認識していたのに、61%が依然として「信頼できる」と回答していたことです。
バイアスがあるとわかっていながら、信頼している。この矛盾した状態を、研究者たちは「認知的不協和(cognitive dissonan






