目次
- 1. はじめに:「聞く力」がリハビリの成果を変える
- 2. まず押さえたい2つのキーワード
- 3. 問診の型を身につける「4つの習慣」モデル
- 4. 研究が示す「よくある課題」と私たちの現在地
- 5. 明日から変える3つのアクション
- 6. 初診で使える会話テンプレート集
- 7. まとめ:1-3年目で身につけたい問診のポイント
1. はじめに:「聞く力」がリハビリの成果を変える
「問診って、何をどこまで聞けばいいんだろう?」
理学療法士として働き始めると、多くの方がこの疑問にぶつかります。学校では評価や治療技術を学んできたものの、実際の臨床では「患者さんとの会話」そのものが治療の土台になることに気づくからです。
実は、問診の質がリハビリの成果を左右することが、近年の研究で明らかになってきました。2026年にオランダで発表された研究では、100件の理学療法初診を録音・分析した結果、問診の質には理学療法士によって大きなばらつきがあり、改善の余地があることが示されました。
本稿では、この最新研究を含む複数のエビデンス(科学的根拠)をもとに、1-3年目の理学療法士が身につけておきたい「問診の基本」を解説します。難しい理論ではなく、「明日から何を変えればいいか」を具体的にお伝えします。
この記事で学べること
・問診に関する2つの重要キーワードの意味
・効果的な問診の「型」(4つの習慣モデル)
・明日から実践できる3つの具体的アクション
・そのまま使える会話テンプレート
2. まず押さえたい2つのキーワード
問診スキルを学ぶ前に、2つの重要なキーワードを理解しておきましょう。カンファレンスや論文でよく目にする言葉ですが、実は混同されやすい概念です。
キーワード(1):患者中心コミュニケーション(PCC)
患者中心コミュニケーション(Patient-Centered Communication)とは、患者さんを「症状を持つ人」としてだけでなく、「その人なりの生活や価値観を持つ一人の人間」として理解しようとするコミュニケーションのことです。
具体的には、以下のような姿勢を指します。
・患者さんの話を遮らずに最後まで聞く
・症状だけでなく、生活への影響や不安についても尋ねる
・専門用語を避け、分かりやすい言葉で説明する
・患者さんの感情に共感を示す
つまり、「丁寧に話を聞いて、相手の立場に立って対応すること」と理解してよいでしょう。
キーワード(2):共同意思決定(SDM)
共同意思決定(Shared Decision Making:SDM)とは、治療方針を「医療者が決めて患者に伝える」のではなく、「患者と医療者が一緒に決める」プロセスのことです。
SDMでは、以下の3つのステップを踏みます。
・選択肢があることを伝える(「AとBの方法があります」)
・それぞれのメリット・デメリットを説明する
・患者さんの希望や生活状況を聞いて、一緒に決める
2つの違いを理解しよう
ここが重要なポイントです。「丁寧に話を聞くこと」と「一緒に決めること」は別物なのです。
【よくある誤解】
「患者さんの話をよく聞いているから、SDMもできているはず」
実は、話をよく聞いていても(PCC高)、最終的に「では、こうしましょうね」と一方的に決めてしまう(SDM低)ケースは多いのです。研究でも、PCCのスコアが高くてもSDMのスコアが低い症例が多数確認されています。
逆に言えば、SDMをきちんと行っている場合は、その前提として患者さんの話を聞いている(PCC)ことがほとんどです。つまり、SDMを実践するには、まずPCCの土台が必要ということになります。
3. 問診の型を身につける「4つの習慣」モデル
「患者中心に」「一緒に決める」と言われても、具体的に何をすればいいのか分からない——そんな悩みに応えてくれるのが、Four Habits Model(4つの習慣モデル)です。
このモデルは1999年にアメリカで開発され、医師だけでなく理学療法士を含む多くの医療職で活用されています。問診を4つのフェーズに分け、それぞれで意識すべきポイントを示しています。
習慣1:始まりに投資する
目的:最初の数分で信頼関係の土台を作る
具体的にやること:
・挨拶と自己紹介をきちんと行う
・「今日はどのようなことでいらっしゃいましたか?」とオープンに尋ねる
・患者さんが話している間は遮らない(目安:最初の1-2分)
・「今日は○○について確認して、△△を一緒に考えていきましょう」と相談の流れを共有する
【ポイント】
患者さんの話を遮らないでいると、平均18秒で自然と話が一区切りつくという研究があります。焦らず待つことが大切です。
習慣2:患者の視点を引き出す
目的:患者さんが何を考え、何に困っているかを理解する
具体的にやること:
・「この痛みの原因について、何かお心当たりはありますか?」と患者さんの考えを聞く
・「生活の中で、一番困っていることは何ですか?」と影響を確認する
・「今日の相談で、特に知りたいことはありますか?」と期待を確認する
【ポイント】
「どこが痛いですか?」「いつからですか?」という事実確認だけでなく、「それについてどう思っていますか?」という患者さんの解釈や気持ちを聞くことが大切です。
習慣3:共感を示す
目的:患者さんに「分かってもらえている」と感じてもらう
具体的にやること:
・患者さんの感情表現(ため息、表情の変化など)に気づく
・「それは大変でしたね」「ご不安だったと思います」など、共感の言葉を伝える
・すぐにアドバイスや解決策を出さず、まず気持ちを受け止める
【注意:研究で最もスコアが低かった項目】
2026年の研究では、この「共感を示す」のスコアが4つの習慣の中で最も低い結果でした(39点/100点)。理学療法士は評価や説明に意識が向きやすく、感情への対応がおろそかになりがちです。
習慣4:終わりに投資する
目的:相談を適切に締めくくり、次につなげる
具体的にやること:
・評価で分かったことを分かりやすく伝える
・治療の選択肢を提示する(ここでSDMが発生)
・患者さんの希望を聞いて、一緒に方針を決める
・「ご不明な点はありますか?」と確認して終わる
【ポイント】
研究では、この「終わりに投資する」がSDMと最も強く関連していました。つまり、SDMは問診の終盤で起こるのです。ここを意識的に設計することが重要です。
4. 研究が示す「よくある課題」と私たちの現在地
「自分はちゃんとできているだろうか?」と気になる方も多いでしょう。ここでは、実際の研究データをもとに、理学療法士の問診における現状と課題を確認します。
研究から見える「現在地」
横にスワイプして各研究の結果を確認できます
オランダの研究(2026年)肩の痛み
患者中心コミュニケーション:45点
共同意思決定:25点
41名の理学療法士、100件の初診を分析
示唆:「共感を示す」「終わりに投資する」の2項目が特に低スコア。改善の余地が大きい。
Hacquebord et al. 2026
日本の研究(2023年)リハビリ全般
患者の希望と実態にギャップ
277名の患者を調査
示唆:60%の患者が「受け身」で意思決定に参加。しかし本当は39%し






